あなたは、ガンを知っていますか? その5
2015-01-07


緩和ケアは治療の最初から

ガンは消えても患者さんは

 わが国では、ガンの患者さんも治療にあたる医師も、ともかくガンを治すことだけを考えてきました。完治はもう無理とわかっていても、亡くなる前の日まで抗ガン剤を使ったりするのです。

 こんな例がありました。直腸ガンの手術後に、肝臓の転移が見つかった患者さんのケースです。ずっと強い抗ガン剤の治療を受けていて、結局は副作用で白血球が減り、感染症で亡くなりました。
 解剖をしたときに担当医が患者さんの奥さんに満足そうに「よかった、抗ガン剤は効いていました。肝臓のガンは消えています」と言ったというのです。
 ガンは消えても治療で患者さんは亡くなっている、本末転倒です。

治癒率より大切なこと

 ガンの治癒率(5年生存率)は、おおよそ5割くらいです。治療の進歩にもかかわらず、いまだに半数近くの方が命を落としています。しかし、ガンで亡くなる患者さんを支える医療が、日本では十分に行われているとはいえません。
 これまでの日本のガン治療の現場は、治癒率を少しでも高くすることにだけ力を注いできました。まさに、勝ち負け重視の医療です。
 しかし、死に直面し、からだや心に痛みを抱えている患者さんにこそ、最高の医療が提供きれてしかるべきでしょう。これこそが、「医の原点」であるはずです。

緩和ケアという考え方

 欧米では、治癒できないガンや痛みなどの症状を持つ患者さんの、さまざまな苦しみを和らげることを主眼として、緩和ケアの考え方が確立されています。
 これは、中世ヨーロッパにおいて、キリスト教の精神から、巡礼者、病人、貧窮者を救済したhospitium(ホテル、ホスピタル、ホスピスの語源)に起源を持ち、痛みなどのカラダの苦痛への対処、死の不安などの精神的苦痛への対処、遺族への対処などを行います。
 一方、日本はガン治療の後進国ですが、緩和ケアはさらに遅れているのが実情です。ガンの痛みを和らげることは、緩和ケアのいちばん大事な役割ですが、その主流は、モルヒネあるいは類似の薬物をクスリとして飲む方法です。
 モルヒネと聞くと、薬物中毒など悪いイメージ、があるようですが、くちから飲んだり、皮膚に貼ったり、ゆっくり注射したりする分には安全な方法です。
 このモルヒネの使用量が、日本はカナダ、オーストラリアの約7分の1、アメリカ、フランスの約4分の1程度と、先進国のなかで最低レベルです。
 モルヒネとその関連薬物である、オピオイド(医療用麻薬)全体について言えば、日本は米国のなんと20分の1程度で、世界平均以下の使用量です。医療用の麻薬の使用量は、その国の文化的成熟度に比例すると言われていますので、大変残念な数字です。
 しかし、麻薬を使わない分、日本のガン患者さんは激しい痛みに耐えているのです。実際、日本では、ガンで亡くなる方の8割、つまり日本人全体の実に4人に1人が、ガンの激痛に苦しむと言われています。
 この理由には、「麻薬を使うと中毒になる、寿命が短くなる、だんだん効かなくなる・・」などの迷信があるようですが、全く根拠はありません。

人生の仕上げのために

 ある患者さん(会社経営者)は肺ガンの全身への転移がみつかり、ご本人の希望で「余命は約3カ月程度」と告知しました。骨の転移によって激痛がありましたので、モルヒネの飲み薬を勧めたのですが、「麻薬はカラダに悪いし、命が縮まる」と拒否されたのです。頭の中では死を理解しても、ココロでは受け入れられなかったのだと思います。しかし、激しい痛みのため、会社の整理はうまくいかなかったと聞きました。
 現実にはモルヒネなどの麻薬系の薬を飲んでも、中毒などは起こりません。それどころか、モルヒネなどを適切に使って痛みがとれた患者さんの方が長生きする傾向があるのです。

続きを読む

[がん]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット